「君、何をしているんだ」

よく通る声が聞こえるのと、ワシがスマホを手にするのはほぼ同時だった。
いつものようにあの女に誹謗中傷をするべく、潰れかけたコンビニの軒先にダンゴムシのように転がっている時だった。
「もう一度聞くぞ。君は何をしているんだね?」と、同じような内容の問いだったので無視をしていた次の瞬間。
ワシの使い古した・・・と言えば聞こえはいいが、要はボロボロで壊れかけたスマホが手から離れるのと、真っ二つに割れたスマホがワシの眼前に落ちるのはほぼ同時だった。
ワシは何が起こったのか、訳が分からずにいた。

ふと目をやると、声の主はワシの目の前で身構えをしていた。
独特の構えだった。
手を後ろに廻しながら片足を上げ、「いつでもお前を蹴れるぞ」という体勢のその声の主は、ワシとは比べ物にならない整った容姿。
二つに分けた豊富な髪の毛、屈強な体格、そしてさわやかな笑顔。
何かの拳法か武術の胴着に身を包んだその声の主の姿を確認したその刹那、腹部に激痛が走る。

「答えられないのかね?ならば体に問おう」

限りなく優しい声が自分の耳を通して無慈悲と言う名のフィルタにかけられる。
一瞬にしてワシはその男に蹴りの乱打を浴びせられていたのだ。
禿げあがった脳天に踵落とし。
二重アゴには前蹴り。
こめかみには回し蹴り。
頬には幾度も、幾度も、幾度も足の甲をねじ込まれる。
そしてブヨブヨの脂肪だらけの身体にも、何十、何百の蹴りが浴びせられた。

「鳳凰脚!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

薄れていく意識の中で、男の怒りにも似た怒声が頭蓋骨に反響する。
苦痛の声すら、断末魔すら、親兄弟への悔悟すら、そして何より、愛する蜥蜴に似た女への愛情と覚悟すら、上げられない。
挙げる余裕すらない。
薄れていく意識の中で、男の怒りにも似た怒声が頭蓋骨に反響する。

「ん、て、こと・・・やまぐち、しごと、あ・・・」

タコのようになりながら、ワシは意識を手放した。